【トピックス】 中国の潜在的な不良債権は12.5兆元と公式発表の10倍 – 日本総研



アジア・マンスリー 2016年10月号

2016年09月29日 関辰一

中国の潜在不良債権比率を推計すると、2015年末時点で8.6%。これを、シャドーバンキングを含む全国の与信総額に当てはめると、同年末の潜在的な不良債権残高は名目GDPの18.5%に達する。

■2015年末の潜在不良債権比率は8.6%
中国銀行業監督管理委員会の公式統計によると、2015年末の商業銀行の不良債権比率は1.7%、不良債権残高は1兆2,744億元にとどまっている。当局は金融機関に対して、貸付債権を①正常、②関注、③次級、④可疑、⑤損失の5種類に分けるように求め、③~⑤を不良債権としている。ちなみに③の定義は、借り手の返済能力に明らかな問題が発生し、正常な収入によって債務の元本と利息を返すのに十分な金額を保証することができない貸付債権である。

しかし、現在の基準では、不良債権の実態は不透明といわざるを得ない。金融機関は上記の定義に則って不良債権を認定しているとは限らない。当局も金融機関に不良債権の認定基準を守らせ、十分な監督責任を果たしているか疑問である。

そこで以下では、営業キャッシュフローによって支払利息を賄えるかどうかを基準に、独自に「潜在不良債権比率」を推計した。まず、上海証券取引所と深セン証券取引所の全上場企業(A株)の社数は、2016年5月17日時点で2,850社であった。全企業の2015年の財務データを整理すると、借入金および支払利息のある上場非金融企業は2,327社であり、この2,327社の借入金合計は8兆5,499億元であった。

次に、安全な企業と「潜在的に危険な企業」に仕分けした。その際、1年間の広義の営業キャッシュフローであるEBITDAが、同年の支払利息を下回る企業を潜在的に危険な企業と定義すると、2,327社のうち223社が「潜在的に危険な企業」に分類された。

この223社の借入金が返済能力面からみた「潜在的に危険な借入金」であり、合計すると7,367億元となった。最後に、2,327社の借入金総額に対する比率を「潜在不良債権比率」として算出した。

結果をみると、2015年末の潜在不良債権比率は8.6%と、公式統計の5倍にのぼる高水準であった。業種別にみると、製造業が18.9%と最も高く、農林漁業17.6%、卸小売業17.1%、コングロマリット14.3%、採掘業7.1、運輸・倉庫5.9%、不動産業4.4%と続く。潜在不良債権比率が高い分野ほど、銀行貸し付けが回収困難となるリスクが大きいと判断できる。また、潜在的に危険な借入金の額を基準にみれば、製造業4,918億元、採掘業762億元、不動産業612億元、卸小売業563億元の順であり、これらの分野向け融資の不良債権化が銀行経営を揺るがす恐れがあるといえよう。

■不良債権規模の推計:12.5兆元と公式統計の10倍
続いて、8.6%と試算された潜在不良債権比率を使って、金融機関全体の不良債権額を推計してみたい。公式統計の不良債権額は商業銀行のオンバランス与信だけを対象にしたものであるが、本稿では金融機関の経営破綻リスクを探るため、オフバランス与信も含めた不良債権額の試算を行った。

まず、オンバランスの与信について、公式統計では2015年末の不良債権残高1兆2,744億元、不良債権比率1.7%であり、ここから推計される2015年末の銀行融資残高は75兆元前後である。一方、中国人民銀行の「社会融資規模存量統計数据報告」によると、2015年末の人民元建て融資と外貨建て融資の合計残高は95.8兆元である。ここでは、よりカバー範囲の広い95.8兆元をオンバランスの与信残高とする。

次に、オフバランスの与信、いわゆるシャドーバンキングの規模について考える。一般的にシャドーバンキングは、銀行融資以外のルートで資金を供給する信用仲介機能であるが、ここでは、銀行の理財商品と委託融資、信託会社の信託融資の三つをシャドーバンキングとして扱う。

理財商品は、銀行が個人や企業から預金を受け入れるのではなく、当該顧客に自らの融資債権を売却することなどにより、融資資産を銀行のバランスシート内からバランスシート外へ移転するものである。

委託融資は銀行を仲介役に企業が他の企業へ貸し付けることであり、本来であれば委託する企業が融資条件を決めるものの、実態的には銀行が貸付先や用途、金額、金利などを決め、融資資産を銀行のバランスシートから企業のバランスシートに移転している。なかには、銀行のグループ企業が銀行融資規制のある貸付先に融資するケースや、銀行がある企業から通常より高い金利で預金を預かると同時に、その企業に銀行指定の貸付先に委託融資してもらうケースなどもみられる。

信託会社のバランスシートを経由する形の信託融資も、銀行のオフバランス融資として急拡大してきた。3つのいずれの形態も、銀行自身が深く関わっているだけに、融資が焦げ付くと、銀行の損失負担が発生する可能性が高い。

中央国債登記結算有限責任公司によると2015年末の銀行理財商品は23.5兆元、中国人民銀行によると委託融資残高は同10.9兆元、中国信託業協会によると信託業の資産管理規模は同14.7兆元である。したがって、2015年末のシャドーバンキングの規模はこれらの合計である49.1兆元という大きさになる。

実際には、銀行のオフバランスの与信の方が回収不能となるリスクが高いとみられるものの、ここでは単純にオンバランスとオフバランスを合わせた与信総額144.9兆元のうち8.6%が不良債権と仮定すれば、中国の金融機関の抱える不良債権残高は12.5兆元となる。これは、公式統計の10倍の金額であり、名目GDPの18.5%に相当する。公式統計は不良債権の認定基準が甘いことや、オフバランス与信が対象に入っていないこと、ならびに商業銀行以外の金融機関の不良債権がカウントされていないこと等が、今回の推計値との大きな違いに繋がっている。

以上のように、不良債権の実態は公式統計を大きく上回るとみられるだけに、金融危機発生のリスクは払拭できない。実際、2015年には債務超過に陥る中小金融機関が出現し、ここ1年で取り付け騒ぎも複数回発生した。当面は金融機関の破綻や緊縮財政などの政府によるミスハンドリングの可能性に注意しなければならない局面といえよう。




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