中国におけるシャドーバンキングの現状と課題 – 経済産業研究所(RIETI)



中国では、従来の銀行融資とは別に、銀行が販売する「理財商品」や信託会社が販売する「信託商品」など、シャドーバンキング(「影の銀行」)を通じた融資の急拡大が、金融リスクを高める要因として警戒されている。特にこれらの資金の一部は、直接的に、または地方政府融資プラットフォーム会社を経由して、不動産市場に流れており、住宅価格の高騰に拍車をかけている(図1)。住宅バブルの膨張を容認すれば、それが崩壊するときに、金融システム全体は大きな打撃を受けるだろう。このようなリスクを防ぐために、当局はシャドーバンキングに対する監督管理を強化しなければならない。
図1 懸念される「中国リスク」の構図
図1 懸念される「中国リスク」の構図(注)→は資金の流れ

(出所)筆者作成

シャドーバンキングとは

シャドーバンキングは、パリバ・ショックが発生した2007年8月に米大手運用会社PIMCOのマネージング・ディレクターだったポール・マカリー氏が提起した概念である。その直後に、米国のサブプライム・ローン問題が顕在化し、この言葉は広く知られるようになった。

2010年11月にソウルで開催された第5回G20金融サミットにおいて、参加国は、シャドーバンキングシステムの規制と監督の強化に関する提言の策定を金融安定理事会(FSB)に要請することで一致した。これに応じて、翌年4月、FSBは”Shadow Banking: Scoping the Issues”と題するバックグランドペーパーを公表し、本格的にシャドーバンキングの問題を取り上げるようになった。

FSBの定義によると、シャドーバンキングとは広義的には「(完全に又は部分的に)通常の銀行システム外の主体または活動による信用仲介」、狭義的には「ノンバンクによる信用仲介」を指す。

国によって金融制度が異なるため、シャドーバンキングの具体的な内容は違うが、欧米では一般的に資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)、コンデュイットやストラクチャード・インベストメント・ビークル(SIV)など、短期の資金を調達し、長期の資産に運用することによって利ざやを確保することを目的とし、レバレッジを多用する投資運用スキームを指す。欧米におけるシャドーバンキングは、金融イノベーションの一環として資産証券化が急速に進む過程で生じたものだと言える。

中国におけるシャドーバンキングの実態

中国におけるシャドーバンキングの範囲について、中国人民銀行は2013年5月に発表した「中国金融穏定報告2013」において、次のような認識を示している。すなわち、金融市場の環境、金融システムの構造及び監督管理枠組みの違いで、中国にはまだ国際的に定義されているようなシャドーバンキングが存在していないものの、銀行業務をしているにもかかわらず銀行として名乗っていない機関の存在は注目されつつある。海外で広く使われている定義と中国の実情を踏まえると、中国におけるシャドーバンキングとは、正規の銀行システムの外で、流動性と信用転換機能を持っている、システミック・リスクや規制回避を引き起こす可能性のある機関や業務によって構成された信用仲介システムである。

同報告によると、中国で融資活動を行っているインフォーマルな金融機関や、金融機関の一部の業務はシャドーバンキングの特徴を持っている。まず、融資を行っているインフォーマルな金融機関には、小口貸付会社、質屋、信用保証会社、私募エクイティファンド、農村資金互助社及び各種の民間の融資組織などの形がある。また、一部の銀行の簿外「理財商品」は、資金プール(異なる期間の多くの「理財商品」を連続して販売し、それによって集められた資金を一括して運用するという仕組み)を利用し、資金の期間転換を行っている。さらに、一部の「信託商品」は連続発行方式(満期を迎える商品の償還資金を新たな商品を発売することを通じて調達すること)で短期資金を中長期プロジェクトに投資している。最後に、マネーマーケットファンドは、金融債と投資銀行預金の購入や金融市場のレポ取引などを通じて銀行信用や社会信用規模を増大させ、また企業債や短期融資券の購入を通じて企業に債務性資金を提供しているという。

しかし、統計上の制約もあり、中国におけるシャドーバンキングの全体の規模に関しては、公式の発表がされておらず、エコノミストの間でも、コンセンサスがとれていない。

中国社会科学院は銀行の「理財商品」と信托会社の「信託商品」のみを対象とする「狭い定義」を提示している(張明、「中国におけるシャドーバンキング:定義、原因、リスク及び対策」『国際経済評論』2013年第三期、中国社会科学院世界経済政治研究所)。それに従えば、中国におけるシャドーバンキングの規模は、2013年3月末には、16.9兆元(GDPの36%に相当)に達していると推計される(表1)。

表1 中国における狭義のシャドーバンキングの規模
表1 中国における狭義のシャドーバンキングの規模

(注)期末値

(出所)Wind咨詢、中国銀行業監督委員会、中国信託業協会より作成

一方、格付け機関であるS&Pは、各項目に含まれる一部の二重計算を調整した上で、委託融資(金融機関を仲介として、一般企業が他の企業に余剰資金を融資すること)や民間融資などを含むより広い定義で、中国におけるシャドーバンキングの規模は2012年末には22.9兆元と試算している(Standard & Poor’s Financial Services LLC, “Why Shadow Banking is yet to Destabilize China’s Financial System,” March 27, 2013)。

コアとなる「理財商品」と「信託商品」

このように、中国におけるシャドーバンキングの具体的範囲は必ずしも明確になっていないが、銀行が販売する「理財商品」と信託会社が販売する「信託商品」がそのコアをなしているという点においてはコンセンサスがほぼできあがっている。

銀行と信託会社は、その殆どが国有で、中国人民銀行と銀行業監督管理委員会(CBRC)の管轄下に置かれている。「理財商品」と「信託商品」の発売はCBRCからの許可を得なければならない。

「理財商品」は、商業銀行が販売する資産運用商品である。一般的に、最低投資額は5万元で、期間は1ヶ月から1年である。現在、一年満期の預金金利が大手銀行の場合、年率3.25%であるのに対して、「理財商品」の予想収益率は年率4%~6.5%である。銀行の「理財商品」の大半は、契約書に元本・利子保証が盛り込まれておらず、原則として銀行が自らリスクを負っていないため、バランスシートの項目として掲載されない。「理財商品」は、コール、国債、金融債、企業債、中央銀行の手形などに投資する金利(フィクスト・インカム)型が中心だが、近年、エクイティも対象とするポートフォリオ型商品の割合も上がっている。

一方、「信託商品」は、信託会社が販売する資産運用商品である。最低投資額は通常100万元である。期間は1年以上で、予想収益率は年率9%前後である。その運用先は主に、政府主導の基礎産業(2013年第1四半期には全体の25.8%)、工商企業(同27.8%)及び不動産業(同9.4%)である(中国信託業協会、「2013年1四半期末信託会社主要業務データ」)。その中で、特に不動産関連貸出を対象とする規制を回避するために信託会社を経由した迂回融資が問題視されている。

「理財商品」と「信託商品」に象徴されるように、中国におけるシャドーバンキングは、①期間転換の機能を持つ、②規制回避の手段になっている、③預金保険制度及び中央銀行のディスカウントウィンドウによるサポートを得ていないため、大量の解約による流動性危機が起こりやすい、という点において欧米と共通している。しかし、欧米のシャドーバンキングが、①ノンバンクによる主導、②高い証券化率、③高いレバレッジ率、④購入者の多くは機関投資家であるのに対し、中国では、①商業銀行による主導、②証券化率が非常に低い、③レバレッジ率が低い、④購入者の多くは個人投資家であるという点において大きく異なっている(張明、前掲論文)。

中国においてシャドーバンキングが急拡大した背景

中国におけるシャドーバンキングの急拡大は、資金の調達側、運用側、そして仲介側の次のようなニーズに応えようとする金融イノベーションの結果としてとらえることができる。

まず、資金の調達側から見ると、2010年頃から当局が金融引き締め政策に転換したため、実体経済は資金不足に陥ってしまった。中でも、マクロ調整の重点となった不動産業、地方政府融資プラットフォーム会社及び中小民間企業の深刻な資金不足が、シャドーバンキングの急成長を促した。

また、資金の運用側から見ると、シャドーバンキングは銀行預金、株式、不動産、為替など以外に、新たな投資商品を提供している。銀行の預金金利の上限を上回る収益率を提供するこれらの新商品は、投資家にとって魅力的である。

さらに、資金の仲介側である金融機関にとって、シャドーバンキングは、金融イノベーションを通じて監督管理の規制を回避する手段である。当局は金利規制と高めの預金準備率(2013年7月現在、大手銀行の場合20.0%)を設けており、また預貸比率(同75%)と窓口規制などを通じて銀行の貸出を制限している。市場競争が激しさを増す中で、銀行は規制を回避するために、従来の貸出に代わる融資の手法として、シャドーバンキングを活用するようになったのである(注1)。

このように、シャドーバンキングは、欧米では、資産証券化の技術を駆使して形成されたものであるのに対して、中国では金融政策の引き締めや金利規制などによって低下した銀行の信用仲介機能を補うものである。

シャドーバンキングの規模拡大に伴うリスク

しかし、中国人民銀行が先述の「中国金融穏定報告2013」において指摘しているように、シャドーバンキングが効果的な監督管理下に置かれなければ、リスクは高まる恐れがある。

まず、マクロ政策と金融監督の有效性が低下しかねない。シャドーバンキングの機能を担う一部の金融機関は、政府が目指している構造調整という意図に反して、資金を地方政府融資プラットフォーム会社、不動産業、高汚染・資源の大量消費・投資過剰の産業に投資し続けている。その上、彼らは、損失補填で不良債権問題を隠し、モラル・ハザードや逆選択を誘発する可能性がある。

また、シャドーバンキングの資金源と業務は正規の金融機関と複雑に絡み合っているため、有効なファイアーウォールがなければ、リスクが他の業界、他の市場に波及してしまう恐れがある。

さらに、正規の金融機関の経営に悪影響を与えかねない。一部のシャドーバンキングでは顧客を獲得するために、銀行の預金金利を大幅に上回る収益率を約束しているものがある。その結果、資金が銀行から流出してしまう恐れがある。

最後に、一部の小口貸付会社、質屋、信用保証会社など、シャドーバンキングの機能を担うインフォーマルな金融機関は、ルールとリスクを無視し、融資規模を拡大している。その上、当局による監督管理も行き届いていないため、許可範囲外の業務を展開する現象が発生しやすいという。

これを踏まえて、中国人民銀行は、「シャドーバンキングの発展における問題点と潜在リスクに対し、監督管理の範囲と度合いを合理的に決めなければならない。実態を把握するための統計の整備に力を入れ、引き続き金利の市場化などの金融改革を推し進め、多様的・多層的金融システムを構築し、地域的リスクとシステミック・リスクを防がなければならない。」と提言している。

中でも、諸外国の経験を参考にし、シャドーバンキングの監督管理を強化することは重要であると指摘している。

まず、シャドーバンキングによる流動性転換を行っている機関に対し、相応の資本準備金、流動性に関する規制を導入し、情報開示を強化し、透明性を高めなければならない。

第二に、健全なファイアーウォールを構築し、シャドーバンキングと正規の金融機関業務との間のリスクを隔離しなければならない。

第三に、小口貸付会社、質屋、信用保証会社の管理を強化し、融資ルートと比率を合理的にコントロールし、レバレッジ率の制限を行い、ルールを逸した経営を是正しなければならない。

第四に、シャドーバンキングも金融統計に取り入れ、社会融資規模統計制度を整備しなければならない。

第五に、各監督当局の間の情報共有化と監督管理の協調を強化し、リスク対策の整備に注力すべきであるという。

シャドーバンキングは中国に金融危機を招くか

中国におけるシャドーバンキングの規模の拡大は、米国で起きたサブプライム・ローン問題と同じように、システミック・リスクの顕在化を通じて金融危機を招くのではないかという懸念の声が上がっているが、次の理由から、その可能性は必ずしも大きくないと見られる。

まず、シャドーバンキングの規模は拡大しているとは言え、従来の銀行の貸出と比べてまだ小さい。その上、レバレッジ率が低いため、デレバレッジによる市場の混乱は避けられそうである。

第二に、各種のシャドーバンキングのスキームは、一部の例外があるが、総じて破綻する確率がそれほど大きくないと見られる。仮に破綻しても、原則として、銀行は顧客に対して損失を補填する義務を負っていない。

第三に、銀行の財務状況が良好で、シャドーバンキング関連業務から損失が発生しても、自己資本や、貸倒引当金で対応できる。2012年の中国の商業銀行の税引後利益は1.24兆元、株主資本利益率(ROE)は19.8%、自己資本比率は13.25%に達している(中国銀行業監督管理委員会、「中国銀行業監督管理委員会2012年報」)。また、不良債権比率は0.95%にとどまっている一方で、貸倒引当金カバー率は295.5%に達している(表2)。

表2 中国の商業銀行の不良債権と貸倒引当金カバー率の推移
表2 中国の商業銀行の不良債権と貸倒引当金カバー率の推移

(注)年末値

(出所)中国銀行業監督管理委員会「中国銀行業監督管理委員会2012年報」より作成

第四に、大半の銀行は国有となっており、いざという時に政府に支援してもらえる可能性が高いと思われる。

第五に、シャドーバンキングの膨脹を抑えるべく、当局はすでに上述した提言に沿って、規制強化など、対策を打ち出している(注2)。これらの政策は、短期的には景気に水を差すことになるが、金融危機の回避に寄与することが期待される。

最後に、中国では資本移動が制限されており、人民元は投機の対象になりにくく、その一方で、危機が起きても海外に直接波及しにくい。

最近、内外のメディアでは、中国におけるシャドーバンキングの急拡大は、もっぱらリスク要因としてとらえられている。しかし、シャドーバンキングは、銀行が仲介する間接金融から市場が貸手と借手を結ぶ直接金融への転換プロセスの一環であり、それによって資金運用の効率が高められるという側面も忘れてはならない。如何にシャドーバンキングのリスクを抑えながら、そのメリットを最大限に活かすかは、今後の金融改革の最重要課題の一つとなろう。そのために、単にシャドーバンキングを取り締まるのではなく、その業務の規範化を進めることが求められる。

2013年8月6日掲載


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