トップ技術者1000人流出 中韓電機、70年代から引き抜き 監視強化で国益死守は限界



トップ技術者1000人流出
中韓電機、70年代から引き抜き 監視強化で国益死守は限界

2017/10/7付日本経済新聞 朝刊

 1970年代半ばからのおよそ40年間で、日本の電機メーカーから少なくとも1000人超に上る国内トップクラスの技術者が韓国、中国を中心とするアジアのメーカーに流出したことがわかった。主に90年代以降の大量リストラであふれた日本の中核人材を中韓などが招請し、アジア勢躍進の立役者を演じた。中韓などへの人材移動は峠を越えたようだが、さらなる先端技術の国外流出が続く恐れがあり、政府も対応策の検討に入った。

「高い技術力を持った人材が流出している」。文部科学省の科学技術・学術政策研究所の藤原綾乃主任研究官が76年から2015年春まで約40年の人材の動きを追跡調査したところ、日本の電機メーカーから韓国企業へ490人、中国企業には196人の技術者が移動したことを確認。台湾やタイなどにも350人が渡っていた。

40年間のアジア域内の技術特許の内容をビッグデータで総ざらいし、日本メーカー在籍時の特許申請名と海外に転籍した後の名前が一致するケースを照合して特定した。特許に名前が出るような上位の技術者だけでも総勢1000人超に達し、実際に渡航した人の数はさらに多いはずだ。

若い人材も多く
海外に移った人のうち韓国は4割以上、中国は3割近くが日立製作所やパナソニックなど国内大手8社の出身。定年退職間近よりも、むしろ比較的若い人材が多く、中国は9割以上、韓国は7割以上が40代以下だ。多くはよく引用される特許などを取得した「日本のトップクラスの人材ばかりだった」(藤原氏)。

中韓への人材大移動が一気に加速したのは00年代だ。IT(情報技術)バブル崩壊やリーマン・ショックで業績が落ち込んだ統合会社のエルピーダメモリは12年に経営破綻。ルネサスエレクトロニクスは従業員数を半減させるほどの荒療治を迫られ、居場所を失った有能な半導体技術者の多くは活躍の場を求め海を渡った。中国の電機メーカーに招かれていたある日本人技術者は「00年代半ばには数千人の日本人技術者が中国にいた」と証言。今回判明した技術者は氷山の一角でしかない。

9月中旬、韓国・ソウルから南西に30キロメートルほどの安山市にあるスマートフォン(スマホ)用の電子部品メーカーの工場。12年にサムスングループから転身した高井啓二氏(46、仮名)が製品の品質改善を指揮していた。

「サムスングループが新工場開設に向け技術者を探している」。こんな誘いをヘッドハント会社から受けたのは日本の電子部品会社で新技術開発班のリーダーだった05年。年収は額面で3割以上高く、単身者でも3LDKの住居に住めるなど破格の条件だった。12年のサムスン退社後も同社出身という抜群のネームバリューで韓国での職探しで苦労することはない。

中韓メーカーは急成長を遂げた。QUICK・ファクトセットのデータでは韓国のサムスン電子の16年12月期の売上高は約20兆円で、過去10年間で2倍に拡大。中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)も売り上げが5倍以上に増えた。この間、日本勢はほぼ横ばいで足踏みしている。

「中国企業は3年以内に技術を完全にコピーできる」と前出の技術者は指摘する。大幅な技術力向上で韓国勢の日本人の引き抜きは一段落したとされるが、中国や台湾などは「今後も日本人の技術者を継続的に採用する」(藤原氏)。

成果報酬5000万円
「年俸3千万円。工場立ち上げが軌道に乗れば5千万円の成果報酬を約束します」。東芝の四日市工場(三重県四日市市)で働く40代の半導体技術者は今春、ヘッドハント会社社員を名乗る相手に熱心に口説かれた。「中国で3年働けば十分なお金が手に入りますよ」。半導体量産に乗り出す中国メーカーにとって日米韓連合への売却が決まった東芝メモリは技術者の宝庫だ。

政府も流出に目を光らせている。日本企業に優位性がある技術は半導体に限らず、航空機の機体などに使われる炭素繊維や高精度の加工ができる工作機械など数多い。

10月には安全保障などに関わる高度な技術の海外流出の防止を強化した改正外為法を施行。M&A(合併・買収)で重要な技術の流出が懸念される場合、海外投資家などに株式の売却命令などができるようになる。

技術者が転職した海外企業で国内の重要技術を漏らせば処罰できる規定もあるが「移動した人を完全に捕捉できるわけではない」(経済産業省幹部)のが悩みだ。

新日本製鉄(現・新日鉄住金)は12年、韓国の鉄鋼大手ポスコなどが最先端の鋼板の技術を盗んだとして提訴。流出には新日鉄住金の元従業員も関与していた。新日鉄住金のケースは「産業スパイ」によるものだが、人を介した技術流出が企業に大きな打撃を与えるのは明らかだ。

あらゆるモノがネットにつながるIoT時代。電機の技術者はアジア以外でも業種を問わず引く手があまただ。技術者紹介大手メイテックネクスト(東京・千代田)の河辺真典社長は「アジアだけでなく、米グーグルや独ボッシュなど欧米企業への流出も将来の日本の競争力を阻害しかねない」と指摘する。

ヘッドハント会社ジーニアス(東京・千代田)の三上俊輔社長は「日本では技術者の立場が相対的に低い。給与水準を上げるなど技術者を報いる仕組みを整える必要がある」と力説する。

能力を少しでも高く評価してくれる環境に身を転じたいのは技術者の根源的な欲求だ。グローバル時代に生まれ育った若い世代ほど転職への抵抗も小さい。監視強化だけで国益を守ろうとするのは時代にそぐわなくなっている。




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